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【シリーズ:挑戦 Vol.1】佐藤賢次「重責と覚悟を背負って、たくましく。桶谷大HCと描く川崎らしさの再構築」

佐藤賢次GMが桶谷大HCと描く「川崎らしさ」の再構築
重責を担う決意
その要請を受けた時、佐藤賢次はすぐに返事をすることができなかった。
「GMは現場の最後の責任者というか、トップ。責任の重い仕事ですから、即答はできなかったですね。1年アシスタントGMをやってみて大変さをひしひしと感じていた部分もあるし、チームの立て直しもしなきゃいけないですし、『本当に自分がやれるのか?』という思いでいっぱいでした」
佐藤は2019-20シーズンから2023-24シーズンにかけてヘッドコーチとして川崎を率いたが、成績が好調だった4シーズンはもとより、下降した最終年は筆舌に尽くしがたい心労に見舞われた。”あの時以上の苦しみを背負うかもしれない”という恐怖を打ち消すためには、腹を決めるための時間が必要だった。
「チームが停滞してる時の全責任はGMにありますので、今まで以上に覚悟がないとできない仕事だと思ったんですよね。チームの現状をしっかりと確認して、この先何をしなきゃいけないのかを想定して、家族とも相談して、覚悟を決めました。ヘッドコーチ時代、暗い男を受け入れてくれた妻には『また同じようなことが起きるかもしれないよ』と念を押したんですが、『もう慣れてるから大丈夫』と言われました(笑)」
経験・編成・環境
かくしてGMに就任した佐藤の最初の業務は、前任の北卓也(現金沢サムライズヘッドコーチ)からチームスタッフと選手の契約、いわゆる「編成業務」を引き継ぐこと。そして、チームの中長期的なロードマップを策定することだった。
佐藤はコーチ時代に「川崎ブレイブサンダースをアジアNo.1のチームにする」という夢を持っていた。残念ながらそれは道半ばで潰えたが、異なる立場で再度チャレンジするチャンスを得た。佐藤は、「経験」「編成」「環境」というキーワードに分けてアクションプランのいくつかを説明した。
「これまで特に足りないと感じていたのが『経験』です。『インターハイに出たい』と思っているチームはなかなかそこにたどり着けないけど、『インターハイ優勝』を目指してるチームは大会の常連になっている、みたいなことを考えると、アジアよりもっとレベルの高いところ……世界のトップレベルと戦う経験を作っていきたいんです。直接肌を合わせて、ぶつかったり、駆け引きしたり。そういうことを経験すると日常の質がちょっと上がるし、それを毎日積み重ねていけばぐんと伸びていける。そんな経験を増やす方法を検討し始めてるところです」
チーム強化の最大かつ直接的なポイントとなる編成でも、長期的なプロジェクトが始動している。スカウト&アナリティクス部門にAIエンジニアと機械学習エンジニアを迎え入れ、テクノロジーを活用しての緻密かつ深いデータ分析を目指すことだ。「まだまだ実用化できるところには至っていませんが、いずれはうちのスタイルに合った数字を出している選手をリストアップしたり、チームの課題を分析するといったところで駆使できればと考えています」
桶谷ヘッドコーチとの化学反応
環境については、新ヘッドコーチに就任した桶谷大のエッセンスを浸透させることが出発点だ。琉球ゴールデンキングスを5季連続のチャンピオンシップ決勝に導き、今年2月より日本代表ヘッドコーチも兼任している桶谷が志向するのは、選手・スタッフ全員が主体的に行動する組織。佐藤は桶谷の思いを汲み、アソシエイトコーチに就任した勝久ジェフリーと相談して開幕までの練習を組み立てた。
「桶さんからは『誰かに言われて初めてやるとか、言われたことだけやって帰るで満足していたら絶対に強くなれない。それぞれが自分のことを理解し、周りの状況をちゃんと見て、今自分が何をすべきかを考える文化を作りたい』という話をしてもらったので、選手が主体的に考え、課題感を持って練習できる仕組みを整えました」
10代からコーチを志し、ヘッドコーチという大役を20代で担ってきたからこその経験値。若い選手たちを思い切って起用する胆力。紆余曲折を経ながらも最後には必ず優勝争いにからむチームを作るマネジメント力。ヘッドコーチ時代に優勝を争うライバルとして何度も拳を交え、ついに日本代表のヘッドコーチにまで上り詰めた桶谷の実力を、佐藤は痛いほど理解している。
「代表活動もあるので、チーム作りの細部はまだこれからですが、桶さんは自分の決めたスタイルに人をはめていくタイプではなく、いる人の強みと弱みをしっかり見て、最終的に強くする人だと思っているので、外国籍を含め全員での練習が始まってから初めてその会話ができるのかなと。桶さんは勝てるチームの文化の作り方を知っていると思うので、僕も学びながら、一緒にそういうチームを作っていけたらなと思っています」
川崎らしさを耕す
2季にわたる低迷を経た現在の川崎ブレイブサンダースに「勝てるチームの文化」がどれだけあるのかは、わからない。ただ、クラブはそこから再び本気で這い上がることを決め、佐藤はその先陣に立つことを決めた。ヘッドコーチとして天皇杯二連覇の栄光と初のCS逸という挫折を味わい、1年間のドイツ留学で新たな知見を得た佐藤は、文化というものの捉え方に変化が生まれたと話す。
「今までは『こういう文化を目指して登っていきましょう』というアプローチでやることが多かったけど、結局、文化って人とか言語とかいろんなものの集合体なので、誰か一人が無理やり作れるものではないんですよね。『優勝』という目標に向かって全員が色を出しながら頑張って、その色が混ざりあって、いつのまにか『川崎らしさ』が生まれているというのが理想です」
Cultureという言葉の語源は、「耕す」という意を持つラテン語だとされている。新しいGMと新しいヘッドコーチ、そして多数の新メンバーを抱えるチームが「アジアNo.1」という壮大な目標に向けてできることは、地道に汗を流して良い土壌を作り、良い芽を生み、試行錯誤しながら大きくしていくこと以外にない。現場から離れた場所でチームを采配する佐藤も、もちろん同様だ。
「GMって、ヘッドコーチ以上に孤独な感じがします。改めて気づくこともたくさんありますし、責任の重さに潰されそうな日もありますけど、覚悟を持って引き受けた以上はその重みを担いでスクワットしていかなきゃいけないので」
ヘッドコーチ時代から多少恰幅の良くなった佐藤は、「それが僕の今季の挑戦です」と笑った。
文:青木美帆
プロフィール
佐藤賢次
1979年生まれ、奈良県出身。青山学院大を経て2002年に東芝(現川崎)に加入。2011-12シーズンよりアシスタントコーチ、2019-20シーズンよりヘッドコーチを務め、ヘッドコーチとしては中地区優勝、天皇杯二連覇などの成績を挙げた。2024-25シーズンはドイツ・ブンデスリーガでアシスタントコーチを務め、2025-26シーズンにアシスタントGM、今季よりGMに就任する。日々の癒しは愛犬の「ハナ」と「マル」。
KAWASAKI BRAVE THUNDERS