Youdaiはどうして川崎に? -渥美雄大、プロバスケチーム通訳の流儀-
Bリーグの試合を観ていると、タイムアウトやヒーローインタビューの時に外国籍選手の近くで翻訳をしている方を見かけますよね。
今回はプロバスケチームの通訳の仕事の裏側に迫るべく、川崎ブレイブサンダースの通訳を務める渥美 雄大さんにお話を聞きました
プロフィール
渥美雄大(あつみ ゆうだい)
1997年生まれ。セント・メリーズ・インターナショナルスクールを卒業後、パスラボ山形ワイヴァンズ、横浜ビー・コルセアーズで通訳を務め、2019‐20シーズンより川崎ブレイブサンダースに加入。
高校卒業時に突如飛び込むことになった通訳の道
学校の勉強が好きではなかった
—川崎ブレイブサンダースの通訳になったきっかけは何だったのですか?
川崎ブレイブサンダースはBリーグの中でも屈指の強豪クラブはどういう組織で、どのように活動しているのかが気になっていました。前任の方が退団されるという話を聞いて、繋がりのあった川崎のフロントスタッフの方に、「通訳が空いているなら入れてください」と自分で売り込みました。
—そもそも通訳という職種を選んだきっかけを教えてください
「縁」ですね(笑)。僕はもともと高校に入る前から、アメリカだとよくある休学制度を利用して1年間大学には行かずに色々なことを経験し、それから大学に行こうと思っていました。その話をバスケ部の先輩に話したら、「1年間何もしないなら通訳の仕事をやってみたら」と山形の監督を紹介してもらったのが、通訳をはじめたきっかけです。
—なぜ休学したいと思っていたのですか?
そもそも学校の勉強が好きではなかったので、大学で4年間勉強するのは不向きだと思っていました。 暗記しなければいけない歴史や地理がすごく苦手で、逆に読解とかスピーチ、プレゼンテーション、ディベートなどが得意でした。 昔から「職人」みたいな専門職に就きたいという想いが強く、高校の頃は料理教室の1日体験などに行ったりしていました
流れに流れてこの道にたどりつきました(笑)
—渥美さんは生まれも育ちも日本ですが、英語はどのように身につけたのですか?
幼稚園の頃に英会話教室に通っていて、小学校からインターナショナルスクールに入学、小学3年生でセント・メリーズ・インターナショナルスクールに転校しました。小さい子が気が付いたら喋れるようになるように、僕も気が付いたら英語を話せるようになっていました。学校では、授業中に日本語を話すと休み時間がなくなってしまったり、とても厳しかったです。
—日本の学校でネイティブの人とも話せる英語力を身に付けられたんですね。ちなみに、海外に行ったことはありますか?
旅行とホームステイのみです。ホームステイは交換留学のような制度で、アメリカのロサンゼルスに1ヶ月程留学していました。
—通訳になっていなかったら他の道はありましたか?
全然考えたことないですね。通訳になっていなかったらそもそもバックパッキングに行きたいと考えていましたので、ひたすら世の中を巡ってみようかなとも考えたことがあります。なので、決められたルートには行かず、流れに流れてこの道にたどりつきました(笑)。
スポーツはサッカー以外は割とできます
—通訳のきっかけはバスケ部の先輩からということですが、バスケットボールをプレーされていたんですね?
小学校までは少年野球、野球が少し飽きてきた中学2年生頃から高校卒業するまでバスケをやっていました。私が通っていたインターナショナルスクールは日本のリーグに所属していませんでしたので日本の大会に全く出られず、インターハイ等の試合もありませんでした。そもそもアメリカなどと一緒で、秋のスポーツ・冬のスポーツ・春のスポーツと3クール制に分かれていた学校でしたので、1年間を通して同じスポーツをやる文化ではありませんでした。僕は、秋はクロスカントリー、冬にバスケ、春に陸上か野球をやっていました。
—結構スポーツ好きなんですね
サッカー以外は割とできます。ひたすら山の中を走り続けるクロスカントリーが一番タフでした(笑)。
プロバスケチーム通訳の仕事はまるで「なんでも屋さん」
外国籍選手が入国した瞬間に、LINEをインストールしてもらいます
—今の業務内容を教えてください
オンザコートの通訳は(勝久)ジェフリーさんが全部やってくれています。なので今はニック(・ファジーカス)と外国籍選手(マティアス・カルファニ、パブロ・アギラール、ジョーダン・ヒース)の4人に関するヒーローインタビューやメディアの取材の際の通訳をはじめ、スケジュール管理や資料製作などをおこなっています。
また、彼らが助けを必要とする時には身の回りのお世話をします。外国籍選手が来日したら最初は一通りスーパーの買い物について行ったり、電車の乗り方やSuicaの使い方など、生活で基礎的に必要となることを教えます。
—選手たちが、困ったことがあった時、どのように連絡のやり取りをしているのですか?
みんなLINEで連絡です。入国した瞬間に「これが連絡手段ね」と言ってLINEをインストールしてもらいます。
—誰からの連絡が多いとかありますか?
一番連絡が多いのはニック(・ファジーカス)。日本の滞在時間が一番長いのに、一番連絡が来ます(笑)。
例えば「乾燥機が回らなくなったんだけど」って言うので行ってみたら、ただ単に乾燥機のフィルターにホコリが溜まりすぎていてエラーがでているだけだったり。「エアコンが付かなくなったんだけど」とかが多いのですが、説明書は日本語で書いてあるから難しいのかもしれないですね。他にはお子様を幼児クラスに入れたり、奥様がバイクを漕ぐエクササイズを始めたりするための手続きもします。もうなんでも屋さんですね。
来日したばかりの選手は「ご飯の注文方法が分からないから注文してほしい」とかが多いですね。休みの日に突然「子どもが調子悪い」みたいな連絡が来たら行かなきゃいけないし、年中無休感はあります。
選手たちの魅力を引き出す通訳という仕事のやりがい
選手たちと仲良くなりすぎても良くないです
—川崎での仕事でやりがいを感じるところを教えてください
やりがいを感じるところは、全員が”勝ち”や”優勝”というゴールを見据えて一丸になって戦っているという気持ちが強いところです。選手たちがみんな本当に良い人たちなので、彼らの魅力を引き出すのもやりがいです。
外国語を話す選手は少し近づきづらいと感じる方もいるかもしれませんので、彼らがチームの一員としてサンダースファミリーの皆さんに覚えてもらい、応援してもらえるように、自分が何を出来るかと考えるのもやりがいだと感じます。 川崎は外国籍選手も長く在籍する選手が比較的多いチームですので、チーム内の雰囲気はとても良いですし、それがチームの良さだと思います。
—逆に仕事で難しいなと感じるところは何ですか?
「線引き」です。頼りになることと仲がいいことのバランスが大事になってくるので、あまり選手たちと仲良くなりすぎても良くないです。しっかりと彼らをコントロールしなければいけないですし、僕がちゃんと言えてないから外国籍選手が足並み揃わないなどが起こってしまうとチームは成立しません。なので仲良くするところと、しっかりするところのメリハリをつけるという線引きが難しいところです。
結構アウトローなのかな
—通訳をするときにメモを取る姿を見ませんが、通訳自体の難しさはありますか?
書いていると気が紛れちゃうので頭の中で整理しています。色々な人に「どうやってやっているの?」と聞かれる事がありますが、感覚としか言えない独自のやり方なのだと思います。他の同時通訳の方々は通訳養成所に通ったり、ちゃんと訓練を受けている人と違って、僕は誰かに通訳のやり方を教わったわけではないので結構アウトローなのかなと思います(笑)。自分の経験値を元に、自分に最適ないい方法でやってきているだけなんです。
ちなみに翻訳して書くのは苦手で、話すときは聞きながら喋る事が出来ますが、文字にするときはなぜだか一度英語で書いててから日本語に直しています。
—ファジーカス選手や外国籍選手に日本語を教えることはありますか?
普段は極力日本語で話すようにしています。みんな日本語を覚えようとする意欲が強いので、集合時間なども全部日本語で伝えます。「おはよう」「こんにちは」「お疲れ様」などと、挨拶も全部日本語です。
ちなみに、チームの中で変な日本語を教えるナンバーワンは藤井選手です(笑)。話を聞いていると小学生かと思います(笑)
彼らの魅力をもっと伝えられるように
—ファジーカス選手と外国籍選手の特徴について教えてください
僕の先入観で勝手に家族で例えるなら、ニックは、フレンドリーで面倒見のいい長男的な存在です。みんなの大黒柱的な存在になっています。マティ(マティアス・カルファニ)は、完全に末っ子ですね。お茶目でいたずらやふざけるのが大好きです。とにかくはしゃぎまくって一番手のかかる子という感じです。ジェイ(ジョーダン・ヒース)は、寡黙な次男。物静かで、あまり多くは語らないけど他の外国籍選手ともすごく仲がいいです。全部自分でやってくれるから手がかかりません。パブロ(・アギラール)は、マティのいとこ。すごく陽気ですが、頭が良くて頼りがいがあります。あと、ビジュアルが彫刻かと思うくらい綺麗です(笑)。
—チーム全員の中で仲の良い選手はいますか?
みんなと満遍なく仲がいいです。でも休日はチーム関係者と会わないというマイルールがあるので、たまにニックとハドソン(ファジーカス選手の息子)とブランチに行ったり、他の外国籍選手ともご飯に行くくらいです。
—最後にサンダースファミリーの皆さんに一言お願いします
いつも変わらないご声援ありがとうございます。ニックや外国籍選手たちも、皆さんが掲げてくださるタオルなどに自分の名前を見つけるととても喜んでいます。ケガをした際にうちわを作って下さったり、ファンの方から愛されているなと感じる事も多いです。
彼らの魅力をもっと伝えられるように僕も頑張りますので、これからも応援よろしくお願いします。