2021-22シーズンの ユニフォームデザインに 込められた想い -YARによるデザインの裏側-
昨シーズンに続き、世界的なファッションブランドや有名アーティストのアートワークを手がけるクリエイティブ集団「YAR」(ヤール)の皆さんに依頼して、川崎ブレイブサンダースの新しいユニフォームが完成しました。
今回は、デザインを手がけたYARのアートディレクター我妻晃司さんと、川崎ブレイブサンダースのアリーナコミュニケーション部の今谷満生部長に話を聞き、新ユニフォームに込められた想いとメッセージを探りました。
打ち合わせを重ねる中で見えてきた「一体感」と「多様性」のコンセプト
クリエイティブ集団「YAR」のみなさんにユニフォームのデザインを依頼した理由を、今谷部長はこう説明します。
「YARさんのデザインのクオリティーが高いという前提のうえで、我々が大切にしているカルチャーの背景までくみとってデザインしていただけるのではないか、という期待が大きかったからです」
今谷部長はユニフォーム制作にあたって、基本的なコンセプトをこのように伝えました。
「バスケットボールのユニフォーム文化を踏まえ、伝統的なクラシックなデザインを入れていただきながらも、現在のクラブや世の中のあり方を反映するような革新的な要素をちりばめてもらえませんか」
そのコンセプトにそって、何度も打ち合せを重ね、今シーズンのユニフォームでは「一体感」と「多様性」を表現していくことになりました。
伝統と歴史を現すフロントボーダー
川崎ブレイブサンダースが日本のバスケットボール界で屈指の伝統と歴史を引き継ぐクラブであるというのを示すのが、胸の部分の大きな切り替え(フロントボーダー)の部分です。
アートディレクターの我妻さんはこう話しています。
「昔のユニフォームは現代のものほどコンセプチュアルに作り込まれていないと思います。だからこそクラシックなデザインは、現代の僕たちから見るとシンプルながらもスタイリッシュで、カッコよく見えたりするんです。今回のユニフォームでは一見シンプルでクラシックな見た目なんだけど、よく見ると実はいろいろな想いが細かく表現されているというデザインを目指しました」
細かい模様や派手なデザインではなく、胸を横断する1本の線のような切り替え(フロントボーダー)。これがクラシック感を演出します。そして、この1本の線のようなデザインが、ファンやスポンサーのみなさんを含めたブレイブサンダースファミリー全体の「一体感」を表しています。
それだけではありません。遠くからは1本の線のように見える切り替えの部分ですが、近くから見てみると、複雑な構造になっていることに気づきます。ホームユニフォームであればブレイブレッドとブラックの境界の部分、アウェーユニフォームではホワイトとブレイブレッドの境界の部分は、1つの線で区切られているわけではありません。
「境界の部分は、様々な線の幅や、色々なカラーが重なり、混ざり合って、グラデーションになっています」(我妻さん) 様々な幅の線や色が混ざり合っているというところに、ポイントがあります。
最近はLGBTという言葉が定着しつつあることからもわかるように、性的志向でも多様性を尊重する世の中へとシフトしています。また、日本にも様々なルーツや人種の人たちが増えてきました。一つの正解や優位性など存在せず、みんなが違っていて、その違いをお互いに認めあえる世の中が理想とされています。川崎ブレイブサンダースはBリーグで最多の動員数を誇りますが、とどろきアリーナで観戦しているのは年齢や性別も、好みのファッションも異なる方々です。そうした人たちが、ブレイブサンダースファミリーとして、一丸となって応援してくれるからこそ、あの魅力なホームゲームの雰囲気は作られているのです。
そんなクラブのアイデンティティーについて、今谷部長はこう話します。
「川崎ブレイブサンダースは、様々な価値観を持つ方々や、人種の異なる方々に支えられています。それが『多様性』だと思います。だから、その『多様性』を今回のユニフォームでは表現したかったのです」
『日本のバスケットボール界って、カッコいいんだね』と感じてもらえるようデザイン性を魅せていきたい
もちろん、細部にもこだわりはつまっています。脇の下部から中央部に縦につらぬいている金色の線は閃光をイメージしたもので、試合中に選手が動く際には、金のラインがスピード感を演出します。
その上部にデザインされた赤、緑、青の3色の横線は、多様性を示す光の三原色をイメージした川崎市のロゴマークに使われているものです。この3色を彩る線の太さも、その線と隣の線との間隔も異なっています。これは年配の方から若い人まで多種多様な人たちが住む川崎市がイメージされています。
もう1つ革新的なのは、背中のデザインです。これまでのBリーグのほとんどのチームのユニフォームでは、背番号の下に選手名が、水平にプリントされてきました。川崎ブレイブサンダースも例外ではありません。しかし、今シーズンは背番号の上に、水平ではなく、アーチ型に選手名が入るようになりました。それは細かな変化も楽しんでもらいたいという思いからの変革に踏み切ったのです。
わかりやすい部分から細部にいたるまで、想いを込めた理由を我妻さんはこう話しています。 「『ブレイブサンダースがやっているから、うちでも、ああいうユニフォームを作りたい』というクラブが出てきたり、ブレイブサンダースのユニフォームを見た人が『日本のバスケットボール界って、カッコいいんだね』と感じてもらえるようデザイン性を魅せていきたいと僕たちは考えています」
「遠くから見てもわからないくらい、細部にこだわって作っていただいている」
昨シーズンのYARがデザインしたユニフォームも選手のなかでは一番初めに見て、感動したという篠山竜青選手は、今回のユニフォームについてこんな感想を抱いています。
「遠くから見てもわからないくらい、細部にこだわって作っていただいているところに、デザインしてくれた方たちの想いを強く感じます」
その「デザインしてくれる方たちの想い」というのは、何を意味するのでしょうか。その答えは今谷部長の言葉のなかにあります。
「選手が着るユニフォームは、ファンや地域の方など、みなさんの想いを背負うものです。だからこそ、多くの方たちに支えられていることがわかるデザインにこだわりましたし、それがみなさんに伝われば良いなと思っています」
今シーズンの川崎ブレイブサンダースのユニフォームは、みなさんの存在がクラブにとっていかに大きいのかを表したもの。つまり、みなさんの象徴でもあるのです。